らくだの日記

読んだ本の感想や、書いている小説についてのあれこれを語ります。

山内マリコ「パリ行ったことないの」の感想。

 山内マリコは長年存在が気になっていました。本屋に行けば必ず置いてあるし、本のタイトルはあまりにも特徴的だし(「さみしくなったら名前を呼んで」なんてすごく気になっていました。どういう状況だろう……)、マリコというカタカナ表記の名前が何故カタカナ? と一瞬思わせるし(でも今どきな感じはしていいと思う)。

 気になってはいたものの、どうせ少女趣味でカジュアルで軽い感じの、子供っぽい小説なんだろうな、と思っていました。何かそんなイメージを抱かせる著者名とタイトルです。

 でも、書店でうろうろしているときに新発売になっていた「かわいい結婚」の文庫版の表紙がとてもかわいくて、つい買ってしまいました。 

かわいい結婚 (講談社文庫)

かわいい結婚 (講談社文庫)

 

 読みやすそうだったので読んだら結構いいなと思いました。固有名詞多めで明るく、でも深刻なテーマを書いていて。結婚の難しさというテーマは多くの人が抱えるものだと思いますが(それこそ未婚の人すら)、この本はそれを色んな切り口で描くのです。家事ができないし向いていないのに恋人の両親の頼みで専業主婦となった女性の物語、二人のそっくりな少女たちが田舎での結婚とハードな都会での仕事という両極端の方向に進んで道が別れてしまう話、少し希望を持てる話としては仕事第一の男性がある朝起きたら巨乳の女性に変身していて、様々な苦労をすることで少しだけ変わる話などあります。

 女性だけが可哀想みたいな書き方をしている印象も受けますが、読むのはほとんど女性だし、わたしの中では結構あるあるなので悪い印象はないかな。

 でも、この本はまあまあ面白いくらいで終わってたんです。次に「パリ行ったことないの」を読むまでは、山内マリコは「まあまあ面白い作家」でした。 

パリ行ったことないの (集英社文庫)

パリ行ったことないの (集英社文庫)

 

 最終的にはパリを目指す多くの女性たちを描いた連作短編集なんですが、一話目の時点で心を鷲掴みにされました。「猫いるし」という短編。主人公のあゆこはパリに憧れて「フィガロ・ジャポン」を定期講読しているというのにパリに行ったことがないのですが、猫いるし、が毎度の言い訳なのです。でもこのままパリに行かないまま死んでしまうのかと思ったら、自分の人生(あゆこは三十五歳です)を悔いてしまうと気づき、猫を預けてパリに行くことにするのです。

 こう書くとシンプルすぎるくらいシンプルな話ですが、わたしは心を捕まれました。わたし自身があゆこそっくりな人間だからです。というかもっと酷い。わたしは臆病すぎて車の運転もできるだけしないようにしてきたし、遠出もしないようにしていたし、友達に迷惑をかけたくなくて、よほどじゃないと遊びに誘わないようにしてきたからです。この短編を読むまでもそういうことにしっかり気づいていましたし、少しは行動するようになっていましたが、この作品で何度かの大きな衝撃と気づきを与えられた気分です。

 行動しようと思いました。わたしはパリにはほとんど興味がないけれど、わたしにとっての「パリに行く」を実現しようと思いました。

 というわけでいい作品です、これ。他にも色んな状況の女性が出てくるのですが、様々な年代の様々な生き方をした女性に共感できるような作りになっています。

 気づきを与えてくれる本というのは時々ありますが、まさかしばらく敬遠していた作家の本からそれがあるとは思いませんでした。

 山内マリコはこの次に「買い物とわたし」というエッセイを読みましたが、すごく面白くはなかったです。「好きな作家なりブランドなりを買い支える」という概念が語られますが、これも何でもデジタル化した現代でよく言われることで、あんまり目新しいものではないし。というわけで、どんどん山内マリコを読むぞー、と思っていましたがストップ中です。  

  今は同人誌や津原泰水の「綺譚集」を読んでます。津原泰水はわたしの中では当たり外れが激しい作家で、これは外れのほうなのかもなーってところです。当たりのほうでは「バレエ・メカニック」と「11」ですね。 

綺譚集 (創元推理文庫)

綺譚集 (創元推理文庫)