らくだの日記

読んだ本の感想や、書いている小説についてのあれこれを語ります。

山尾悠子と皆川博子。

 山尾悠子が好きで、「山尾悠子作品集成」「夢の遠近法」「ラピスラズリ」「歪み真珠」と新品で買える分は全部買って、「文學界」に載っている作品も早速読みました。何故か一番再読が躊躇われる作家で、再読したら初読のときの感動が塗り替えられるかもしれないと心配なのです。一番好きな作品は「夢の棲む街」、一番好きな一冊は「歪み真珠」です。
 「夢の棲む街」のあの悪夢感は一体何だろうなとよく考えます。細部(籠の中の侏儒、薔薇色の脚、ゆっくりと死に続けている女等々)がそれを作り出しているのは明らかなのですが、やはりあの雰囲気は文章の賜物だろうというのがいつもの結論です。先月号の「文學界」は自然他の作家の作品と読み比べる形になるのですが、山尾悠子は全く文章の感じが違います。リズムが違うし表す事象をしっかり掴んだ文章という感じがします。具体的な描写がなくとも、です。「文學界」に載った「飛ぶ孔雀」は「夢の棲む街」とはまた違う作品ですが、「山尾悠子の文章」を考えるときに参考になるように思います。つまり悪夢感の正体は文章。文章に悪夢感が宿っている。
 山尾悠子の文章はあっさりした短い一文の積み重ねとは違います。織物のように表現と表現が絡み合った複雑な文章です。これはどうやったらこうなるんでしょう。私も文章を書くので解き明かしてみたいとは思うのですが。山尾悠子の秘密を知るために考え、そのたびにここでとまります。
 「歪み真珠」は掌編集ですがバラエティーに富んだ作品集です。こんなに面白いネタ、私なら長編にしてしまうのに、とよく思います。そこを贅沢に掌編として纏めるのが山尾悠子の凄さであると考えます。

夢の遠近法 山尾悠子初期作品選

夢の遠近法 山尾悠子初期作品選

歪み真珠

歪み真珠

 皆川博子はまだ十冊程度しか読んでいないのですが、全部読みきれる感じがしないほどの多作な作家ですよね。中古の文庫本を読み終えたら中古の単行本を読み、それすらなくなったら新品を、と思っているのですがなかなか中古の文庫本から抜け出せない。絶版の作品が多いからそればかりを選んで買っているのですが……。新品も読みたいものは時々買っています。「薔薇密室」は本当に素晴らしかった。皆川博子は耽美とエンターテイメントに生きる作家ですね。
 「薔薇密室」の素晴らしさはすれ違いにあります。少女と青年の心のすれ違い、そして居場所のすれ違い。ドイツとポーランドを大きく行き来する作品なので、特に居場所のすれ違いが雄大さを覚えるほどです。ポーランド人少女のミルカはコンプレックスが強くて少し傲慢なところがありますが、それが一途な青年ユーリクとの心のすれ違いを生んで、作品を素晴らしい恋愛小説にしています。しかし少女の成長や戦争の悲惨さも内包するこの作品は、ただの恋愛小説に終わることなく、壮大な盛り上がりを見せてから見事に収束していきます。私は読みながらユーリクの幸せを願っていました。登場人物を魅力的に描く。エンターテイメントに必要なその要素を、皆川博子は完璧にやってのけています。
 皆川博子は短編集も素晴らしいですよね。私は「薔薇忌」に収められた作品のイメージが好きです。薔薇の花びらで窒息死したい青年、化粧をした旅の役者の少年……。息が詰まるようなねっとりとした描写が続き、短編集ばかり何冊も読むのは大変ですが、時々は読まないと人生が物足りなく感じられます(笑)
薔薇密室 (ハヤカワ文庫 JA ミ)

薔薇密室 (ハヤカワ文庫 JA ミ)

薔薇忌 (集英社文庫)

薔薇忌 (集英社文庫)

 両者とも素晴らしい作家です。